過度の残業や長時間労働によるうつ病や自殺などが大きな社会問題となっている昨今。
社員の体調はもはや社員本人だけの問題ではなく、社員が心身共に健康に働けるように配慮することは会社の重要な義務の一つとなっています。
今回は企業に求められる社員の安全(健康)管理義務について。
その重要性や企業が求められることについてご説明します。
社員の健康管理は会社の責任
2008年に施行された労働契約法で、「企業は従業員に対して生命や身体の安全を確保しながら働けるように配慮する義務がある」ということが明文化されました。
上記のように使用者が雇用者に対して生命、身体の危険から保護するための環境を用意しなくてはいけないことを「安全配慮義務」と言います。
それまでも判例上では、使用者は雇用者に対する「安全配慮義務」があるとされていましたが、法律上明文としての明確な根拠はありませんでした。
これを、当然に必要な義務として明文化したのが2008年施行の労働契約法です。
労働契約法自体に罰則規定はありませんが、労働契約法施行以前から今日にいたるまで、安全配慮義務を怠った事によるトラブルや訴訟について、企業への損害賠償を命じる判決が多数存在しています。
また労働安全衛生法では生命や身体の保護だけでなく、社員にとって快適な職場環境作りを積極的に行うことも求められています。
社員の健康を守るために企業が求められる「安全配慮義務」
では、社員の健康を守るために具体的にどのような配慮をしたら良いのでしょうか?
安全配慮義務を守るために押さえておきたいポイントは次の4つです。
■適性労働条件措置義務
過重労働が原因となって心身の健康を害さないために、労働時間や休憩・休日、休憩場所、人員配置などの労働条件を適正に保つ義務です。
昨今、過重労働による過労死や過労自殺が社会問題となっているように、適正な労働時間を管理することは企業にとって最も配慮すべきことの一つと言えます。
従業員自身が過重労働に対して問題ないと考えている場合でも、企業側で適切な労働時間を管理する必要があります。
■健康管理義務
必要に応じて健康診断やメンタルヘルス対策を行い、労働者の心身の健康状態の把握と健康管理に努める義務です。
労働安全衛生法では、労働者を雇い入れた時の健康診断、1年に1回の定期健康診断や特定業務従事者(深夜業や身体に有害な物の取り扱いや有害な環境での従事者)への特定業務従事者健診を義務付けています。
ただ単に健康診断を実施するだけではなく、健康診断の結果が出た後についても、企業は従業員に対して適切な処置をとる必要があります。
■適性労働義務
労働者の病歴、持病、体調状態などを考慮した業務配置を行う義務です。
従業員が業務によって心身の不調を訴えた場合や持病がある場合にもかかわらず、企業がそれに対する対応を怠った場合には安全配慮義務違反になることがあります。
適切な業務配分を行う他に、今現在健康な従業員でも急な身体不良を起こす可能性もあるため、もしもの際に適切な対応ができるような体制を整えておくことも重要です。
■看護・治療義務
病気やケガをした場合に適切な看護や治療を行う義務です。
従業員が業務によってケガをしたり精神障害を発症した場合に、企業が適切な看護や治療を行うのはもちろんですが、「発症した可能性」がある場合にも対応する必要があります。
日頃から従業員とコミュニケーションを取り、少しでも異変があった場合には病院で受診をしてもらいましょう。
社員の健康管理も経営のうち
会社において社員がイキイキと活躍するためには、健康であることが大前提です。
社員が健康であるからこそ高品質の商品やサービスを提供することができ、それが顧客満足度の向上やひいては会社の成長にもつながります。
体調不良や疲労が蓄積した状態での業務はミスや事故など重大なトラブルを引き起こしてしまうという、経営リスクの可能性もあります。
病気やメンタルの不調が原因で社員が退職してしまった場合、その後の採用や教育といったコストも発生してしまいます。
「法律で決まっているからやらなければならない」というだけではなく、生産性や顧客満足度を上げ、経営リスクやコスト発生の可能性を抑えるためにも社員の健康管理は重要なのです。
このような、社員の健康管理が企業の経営にも大きな成果をもたらすという「健康経営」の考え方が現在広く取り入れられています。
「健康経営」についてはこちらの記事でも詳しくご紹介しています。
会社でできる社員の健康管理
既に多くの会社で社員の健康管理をするための様々な取り組みが進められています。
健康な体をつくる・維持するための取り組み
働きながら健康を維持するのは案外難しいもの。
会社の取り組みの一環として、社員が働きながら健康維持ができる取り組みには次のようなものがあります。
- 健康診断で病気の早期発見、健康状態を把握して病気を予防する
- レクリエーション企画で体を動かす機会を作る
- 休憩スペースをつくり、職場環境の整備をする
- 社員食堂で栄養バランスの良い食事を提供する
- 健康セミナーなどを行い啓発活動の実施
健康的なメンタルをつくる・守るための取り組み
体の健康ももちろんですが、今日の日本ではメンタルヘルスに対しても大きな関心が寄せられ、メンタルヘルスに関する取り組みを始める企業も増えてきています。
- 過度な残業、長時間労働の改善
- 相談窓口を設置する
- 定期的にストレスチェックを実施する
- 産業医を配置し、カウンセリングを行う
福利厚生による健康管理
上記で紹介した取り組みの中には、福利厚生として取り入れることができるものもあります。
例えば、健康診断やスポーツジムの利用、メンタル相談窓口などの設置は福利厚生の一環として取り入れている企業も多く、福利厚生アウトソーシングなどを利用することで比較的取り入れやすい取り組みでもあります。
福利厚生の充実は体調管理だけではなく、社員の満足度にも繋がるポイントになりますので、社員の健康管理で何をして良いか困った場合には、福利厚生アウトソーシングなどに相談するのも良いかもしれませんね。
福利厚生アウトソーシングについては過去の記事も併せてご覧ください。
「福利厚生をアウトソーシングするメリットを知って経営に活かす!」
まとめ
社員の健康管理は、もはや会社の経営に関わる重要な課題となっています。
2008年に施行された労働契約法では、使用者の雇用者に対する「安全配慮義務」も改めて明文化されました。
労働者にとっては心身の健康を維持しながら働き続けるため、企業にとっても生産性を向上させつつ経営リスクを減らしていくためにも社員の健康管理は必要不可欠なのです。